小児の新型コロナワクチンに関して、疑問を持たれている方が多いので、お答えします。
新型コロナワクチンにおける重要な副反応は心筋炎ですが、そもそも新型コロナによる感染で心筋障害の合併が多数、指摘されていて問題になっています(論文Eur J Pediatr. 2021;180(2):307. Epub 2020 Aug 15. をご参照下さい)。
この頻度は、ワクチンによる発症頻度の頻度の数十倍です。
一度は必ず新型コロナに感染すると考えれば、結果的にワクチン接種により心筋炎のリスクが数十分の1に大きく減らせると考えて良いと思います(図に示す通り、厚生労働省のホームページに分かりやすい表が記載されています)。
もちろん宗教含め様々な信念を理由としてワクチン接種をしたくない考えは尊重するべきと思います。
しかしもし仮にワクチン接種をしない理由が心筋炎のリスクを恐れての事であれば、当然、新型コロナ感染による心筋炎のリスクも恐れなければなりません。
その場合、防御しなければ一度は感染する可能性のある感染力のある病原体ですので「心筋炎が怖いから、ワクチン接種をする」という立ち位置になるかと思います。
また、心筋炎以外にも新型コロナ感染によって子供に大きな後遺症を残す事例は多くあります(論文Clin Infect Dis. 2021;73(2):336. をご参照下さい)。
実際に「オミクロンでも新型コロナ感染はとても苦しかった」という声を聞いております。
その他、現時点で不妊症など含めて、ワクチンの方がより重篤になる現象は認められていません。
事実として、既に何十億の人が接種しています。そのため、既に安全性も効果もとてもしっかりしたデータが揃っています。
そして現状では感染に比べてワクチン接種は大きな問題がないことも分かっています。
基本的に新型コロナに感染すると大量の様々な種類の新型コロナのmRNAが体に作られます。
一部のmRNAだけを使用するワクチンの方で合併症が少なかったとしても不思議はないと考えます。
オミクロンは、ワクチンをしていない場合、いつかどこかで感染すると考えて良いと思います。
そして重症化して入院される方は、やはりワクチン接種をしていない方がほとんどです。
以上から、感染する前にワクチンを接種しておく方がずっと安全であると考えています。
新型コロナを予防するため、マスクをするなど様々な対応をされていると思います。
では一番大切な対策は何でしょうか?
接触感染が主である新型コロナを予防するのに一番大切なのは、実はマスクより手洗いです。
マスクに効果が無いというわけではありません。マスクは3密が避けられない場所で必要になります。
しかしそれ以上に手洗いの方がずっと感染予防に重要という事です。
例えば、スーパーに入るとき、マスクを忘れる人は少ないですが、手洗いを忘れる人が多いですが、これは本末転倒です。
例えマスクを忘れても手洗いは忘れないくらいの心持ちで、手洗いを重視してください。
当院でも入り口に水道と消毒があります。躊躇せず利用してください。
アルコールによる消毒もコツがあります。簡単には手洗いと同じと考えてください。
消毒を忘れやすい部位は、手洗いと同じ。
手のひらだけでは無く、指の間、爪の間、手首などの忘れやすい部位にもしっかりと消毒を染み込ませてください。
消毒を行う順番 (提供:サラヤ株式会社)
今、当院でも受付のシールド強化や駐車場・オンライン診療など感染症対策への強化などを取り入れています。
もっとも大切な手洗いを徹底し、共に感染症と戦っていきましょう。
ある研究者の「俺はこの最先端治療を標準治療にしてみせる!」とか「受けるのが標準治療ではなく最先端治療になるのは残念だ」という言葉を聞いてどう感じますか?
医療従事者が聞くと言葉のおかしさは感じないことが多いです。しかし一般の方からすると違和感があるかもしれません。違和感が無かったとしても、医療従事者が感じる意味と違う意味にとられている場合もあります。
「標準って平均的なのだから、最先端が標準になったらランクが落ちてない??」という感じでしょうか。確かに「標準的な料理」なら、裏にもっと美味しいものが隠れていそうです。
しかし医療でいう標準的な治療という場合、この一般的な意味とは多少異なります。
「標準治療」に関して国立がん研究センターがん情報サービスの用語集では下記の様に明記されています。
「標準治療とは、科学的根拠に基づいた観点で、現在利用できる最良の治療であることが示され、ある状態の一般的な患者さんに行われることが推奨される治療をいいます。」※
この場合、標準治療が「標準」かつ現時点で「最良」という位置づけです。最良のオススメ治療なので、広く皆に行き渡らせるようにする、故に標準が最良なのです。
「標準治療を行って無効だった場合に別の治療をする」というのは、「より良い治療があるけれど、まずは一般向けの治療から入る」という意味では無く、最初から「考える限り最良の治療を開始し、それでも効果が無い場合に別の選択肢」と言う意味なのです。
もちろんそのオススメ自体が日々研究されているので、常に最先端治療がありますが、最先端だから標準より常にオススメだという意味ではありません。
だからこそ「この最先端治療を標準治療にする」という研究者の野望は、今の研究成果を世界で最良のオススメされる方法に洗練し確立したいという意味合いがあったわけです。
同じように「標準治療ではなく最先端の治療なのは残念」というのは、最もオススメの治療が使えない状況であり、最先端の治療でも嬉しくない状況なのです。
なので「標準治療以外の治療」という場合、多くは例えそれが最先端治療であっても「標準治療のより上の治療」ではなく「最もオススメできる治療と別の治療」という感覚です。
よく医療フェイクニュースとなるものを注意深く検討すると、この辺の誤解をとてもよく利用するものがあります。ある商品を売り込みたい場合は「標準」の治療がいかに粗悪品で実は裏にもっと良い治療があるのだ、この商品がそのより良い治療なのだと喧伝するのが一番手っ取り早いのです。
ただしこのようなフェイクに引っかかる気持ちは分かります。
そもそも医療の限界があり、それ以上のものを期待したい気持ちの現れなのだと思います。
しかしその気持ちにつけ込まれて、必要な事がおろそかになってしまうのでは本末転倒です。
「我々の施設は標準的な治療を提供します」という宣言は、一般的な意味としてはあまりパッとしませんが、それなりの意味合いがあるのです。当院も世界の標準的な治療が提供出来るよう日々努力しております。
参考
※国立がん研究センター がん情報サービス 「標準治療」
https://ganjoho.jp/public/qa_links/dictionary/dic01/hyojunchiryo.html
テレビでも話題の「悪玉コレステロール」ですが、これはLDLコレステロールの事を指しています。
LDLコレステロールが高いと心筋梗塞や脳梗塞のリスクになります。
では健康診断でLDLコレステロールが高いと診断されたとき、どうすれば良いと思いますか?
コレステロールが高いのなら、下げるだけ下げたら良い?
それともコレステロールを下げる薬はメリットが少なく副作用だけだから下げる必要は無い?
LDLコレステロールに関して、様々な方が色々な事を言いますが、こういう一般論で「あなた自身」の事を語るのは不十分だと思っています。
何故なら、悪玉コレステロールの目指すべき値は人によって違うからです。
その人その人のリスクに合わせて個別の目標値が必要です。
例えば同じ45歳男性が同じLDL 140で相談に来たとします。
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Aさんは、LDLコレステロール以外に健診で全く引っかかりませんでした。タバコも吸わないし、家族親族で誰一人心筋梗塞や脳梗塞などを起こした人もいません。
LDLコレステロール以外の他に心配するポイントがないAさんに対し、もし診察しても何も無ければ、私はコレステロールを下げる薬を出す事は無いでしょう。
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Bさんは若年ですが心筋梗塞を起こして血をさらさらする薬がもう開始されていました。家族もみな高度の高脂血症があり心筋梗塞を起こして若くして亡くなっている方も多くいました。
LDLコレステロールだけでは無く他に多くの危険因子があるBさんには、直ぐにコレステロールを下げる薬を使います。
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このように、私がAさんに「コレステロールを下げる薬を使う必要がない」旨を伝えたとして、同じ年齢で同じLDL値のBさんへも「コレステロールを下げる薬を使う必要がない」とは言いません。
特に心筋梗塞を起こした方であれば、LDLコレステロールの値はより厳しく設定しなければなりません※。
でも世の中、一番多いのはAさんのタイプです。そこで一番多い人へ向けたアドバイスがそのまま一般論とされてしまうと、Bさんにとってはとても良くないことになっていまいます。
あなたの目標値をどの程度の値にするか。本当はちゃんと診察しないと分かりません。
あなたの健康は何か個別の数値だけでは決められません。
迷ったら是非一度ご相談ください。
参考文献 ※ N Engl J Med. 2005 Apr 7;352(14):1425-35.
処方薬は原則、必要であるために処方していますので、不要な薬はありません。しかしそれでも休薬したい場合があると思います。
今回は休薬について考えてみましょう。
口から入るものは、どんなものでも危険性があります。
一般的な食品、例えばお蕎麦やピーナッツでも、人によっては致死的なアナフィラキシーショックを起こしますし、ご飯も食べ過ぎれば糖尿病になります。
もちろん、薬は作用が強い分、これらのものより副作用が強く出る可能性があります。
特に複数の薬を使っている場合、様々な副作用が出ることがあります(※1)。
とても大事な事なのですが、自己判断による投薬の中止は非常に危険な場合があります。
止めることで脳梗塞や心筋梗塞を起こしやすくなる場合もあります。
調子が悪くなって止めたという場合、その裏に別の病気が隠れているときもあります。
薬も数が多いことが全て悪いのではなく、悪いときとそうでないときとある事が分かっています(※2)
時に命に関わることもありますので、自分で決めてしまう前に、是非ご相談ください。
薬を止めたいという訴えに対して、当院では怒ったり不当な扱いをしたりするなどという事はありません。
一緒に考えていきましょう。
※1 Ferner RE, Aronson JK . Communicating information about drug safety. BMJ. 2006;333(7559):143.
※2 Wise J. Polypharmacy: a necessary evil. BMJ. 2013 Nov 28;347:f7033.
当院では、風邪に対して抗菌薬を使用することは原則ありません。
一番の理由として、風邪に対して抗菌薬がほとんど効かず、むしろ抗菌薬による副作用の頻度が多いからです。※1
つまり私たちは「念のために出す抗菌薬」によって害が出ることを避けたいのです。
一方で、二次感染など抗菌薬が必要な場合もあります。
心配なときはご相談ください。
参考文献
※1. Arroll B, Kenealy T. Antibiotics for the common cold and acute purulent rhinitis. Cochrane Database Syst Rev. 2005 Jul 20;(3):
当院ではインフルエンザや風邪など日常の一般的な病気に対して、よりよい診療を行うために日々研究を行っています。
そこで当院での診察データを統計的なデータとして解析し、新しい発見があれば論文として発表する場合があります。
情報は個人の特定が出来ないように厳重に管理いたします。
問診票へ名前に署名頂いた場合は形式上同意とさせて頂きますが、研究に同意しない場合は申し出てください。
不同意の場合も不利益になる事は一切ありません。